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1:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:25:27.35 ID:SuJRDoqN0
===
765プロ劇場多目的和室にはこたつがある。
十二畳の畳張り。広い部屋の中央に、もう一度言うがこたつがある。

コタツ、炬燵、おこたコタツ。テーブルと布団の組み合わせ。

俺のこたつが真っ赤に燃える。お前もこたつむりにしてやろうか?
あー、あー、こたつみかん。冬が去ってもおこたは出しておこう……。

さて、そんなこたつにアイドルが入る。劇場にあるのだ当然だ。
道具は、使われるため、利用されるためにそこにあるのである。

日本人の、アイドルの、日本の地に立つ二本の足を温めるためにあるのである。
だからほら、こたつに両足を突っ込んで、蕩け切った表情を浮かべる劇場アイドルエミリースチュアート!!

「……はぁ~……幸せでしゅ」

英国生まれの金髪少女、エミリーはすっかりコタツの虜だった。
今もその一辺を占拠して、日本の誇る冬の文化、こたつみかんを堪能し終わったばかりである。
2:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:28:28.51 ID:SuJRDoqN0

そんな彼女の対面で、同席する田中琴葉は事前に用意しておいたアイスクリームの封を開けた。

"こたつでみかん"が日本の古き良き伝統文化であるならば、
"こたつでアイス"は近年生まれた新しいムーブメントと言えるだろう。

アイドルたるもの流行りすたりにはなるべく敏感でありたいもの。
乗って損の無い流行なら、とりあえず一度は乗るが宜し。

「あ、エミリーちゃんもアイス食べる?」

「食べます!」

または気さくな笑顔で「乗ってく?」と、流行を広める姿勢も大事である。
琴葉の問いかけに即答したエミリーに手渡されたのは実にけったいなアイスだった。

それは一般的には申し訳程度の粒あんと、アイスを最中で出来た外皮で包み込んだアイス。

外皮の形は魚であり、いわゆる鯛の姿を模していた。ご存知"たい焼きアイス"である。
3:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:32:34.40 ID:SuJRDoqN0

たい焼き、たい焼きではあるのだが、自称たい焼きソムリエたる高山紗代子女史曰く。

「仮に、仮にですよ? 鯛の姿を模した食べ物全般を"たい焼き"と定義するならば、
確かにたい焼きアイスもたい焼きの仲間であると私は言わざるをえませんけども。

だけど、そこで、待って下さい。

たい焼きと言うのは、本来鉄板の上で焼かれて熱を通されて、初めて形になる物です。
最初はゆるゆるだった生地が、加熱という試練を耐えることでビッと尾を立て形になる。

それは、つまり、人の比喩です! 人生の! 情熱という炎で熱せられ、社会という名の型にはまる。
けれど焼き上がりに一つとして同じ形は無く、中に入っているあんこの量は、そのまま一尾一尾の心の豊かさを表してる!!

……対してたい焼きアイス? あれはなんです!? ぱっさぱさの最中の中に、コクも何もないアイスが詰め込まれて……

そんなので耐えることができるのかと! 本家本元のたい焼きとは違い、
あれらは少し温かくなるだけで、みっともなくドロドロに溶けちゃうじゃないですか!!」

……とのことなのだが。

「でも私はたい焼きアイス好き。だって形が可愛いもの」

紗代子の自論も琴葉が持つ女子力の前では完膚なきまでにスルーされる。

ちなみに完全なる余談となるのだが、"女子力=可愛い!"と言う悪魔の公式を発見した
高坂海美がある時期の間、目に入る全ての物を一々指さし確認しつつ。

「それ可愛い! あれもカワイイ! これも可愛いしみーんなカワイイ~!! うみみ、覚えたっ!!」

などと劇場の中を巡っていたが、中でも一番可愛かったのが
何言わん自分自身であったことには最後まで気づかなかったという。

話が逸れた、脱線だ。

では今一度物語の舞台を、望月杏奈もその身を転がして入っている劇場おこたに戻すとしよう。
4:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:35:01.38 ID:SuJRDoqN0

台の上、アイスの入ったビニール袋を鳴らしながら、琴葉が杏奈にも質問する。

「杏奈ちゃんもアイス食べる?」

「……杏奈は、いい。……お昼に、蜜柑も一杯食べました」

「そう? じゃあ残ったアイスは溶けないように、クーラーボックスに入れておくね」

そうして琴葉は微笑むと、コタツの隣に用意していた小型のクーラーボックスへアイスの入った袋を入れた。

なぜアイドルの劇場にそんな物が?

それは765劇場糧食班、班長である佐竹美奈子が詳しく知っている。

「ああ、あのクーラーボックスのことですか? あれは普段、魚を入れるのに使ってます。

ほら、劇場の隣って海じゃないですか。

稽古が本格的になると泊まり込む子だって出てきますし、そういう時は一人一匹、ご飯のおかずを釣るんです。
これが結構気分転換にもなるって好評で、この前なんて翼ちゃんが胸に抱えるぐらいの大物を――」

また、この時釣り上げた獲物の魚拓が現在劇場エントランス物販売り場にて展示中。
伴田路子作のトーテムポールのすぐ隣、ジャイアントパンダ茜ちゃん人形との間のスペースに掛かっている。

さて、世には奇妙な物語。世間に星型こたつは無いようだが、劇場のこたつは少々形が変わっていた。

具体的に言うと机の辺の数がひぃふぅみぃよぉ六角形。
今、その六角こたつの三つの辺に琴葉、エミリー、杏奈の三人が座っている。
5:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:38:08.16 ID:SuJRDoqN0

もう少し詳しい描写をしよう。まず、エミリーは普段と違ってその髪を全て下ろしていた。

つまり、彼女のチャームポイントでもあるサイドテールは左右どちらも解かれて、
現在は腰の辺りまである髪が、さらさらと畳に触れている。

また、琴葉もカチューシャをつけていない。代わりに彼女は髪を括っていた。
ポニーテールのその下に、覗くうなじの美しさ。

そして畳みに転がり携帯ゲームに興じる杏奈はと言えば……別段普段と変わらない。

いつものように髪はもしゃもしゃ。上は丈の長い長袖のトレーナーをパジャマ代わりにし、
こたつに潜った下半身はパンツ丸出しで赤外線を浴びている。後はまぁ、膝下まであるもこもこ靴下が今の彼女の全装備だ。

つまり、ブラは、つけていない。

エミリーはもう少し上品に、首元や袖口にフリルのついた可愛らしいパジャマを着込んでいた。
色は緑茶を思わすモスグリーン。下に履いているパジャマのズボンは七分丈。

丸出し無防備なくるぶしの、愛くるしさと言ったらない、ない! ないのだが、
残念なことに彼女のくるぶしとかかとはこたつ布団の奥にある。

できれば自ら想像で、その滑らかな曲線とくぼみにたまる汗の艶やかさを思い描いて頂きたい。
6:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:39:52.17 ID:SuJRDoqN0

そして最後は琴葉について大いに語ることにしよう。

まず、お手元にネット接続できる端末を用意してもらいたい。
それは携帯でもパソコンでも何でもよいのだが、用意できたら次の単語、"寝る前の台本チェック 田中琴葉"で検索願う。

すると神出鬼没のチャンス泥棒、765プロダクション専属契約カメラマン早坂そら氏による会心の一枚が見れるハズだ!

「あの一枚は自分でもよく撮れてると思いますよ。可愛らしいパジャマ姿もそうですけど、
なによりオンとオフの中間にある真剣な表情に注目して見てもらいたいですね。

自然体なのに張りつめて、予習復習を欠かさない、彼女の真面目な人となりを上手く切り取ることができたかな?
……なんてこっちは自賛していますけど。

後は、彼女が無防備に晒しているお尻。ふくよかで張りのある
あのヒップラインもファンの方には気に入って頂けるかと思いますね」

以上は出来上がった写真を事務所に持って来た際に、そら氏がプロデューサーへ語ったコメントである。
こたつに入っている琴葉はつまり、その時と同じパジャマ姿でいたワケだ。
7:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:42:05.41 ID:SuJRDoqN0

しかし、まぁ、そのようなことを語るとである。

どうして劇場のアイドルが、おこたに入ったアイドルが、
三人が三人ともパジャマ姿なのかと気になる方もいらっしゃろう。

説明させて頂くと、実は現在時刻は夜の八時。もう少しで九時になろうかと言うところ。

平たく言えば泊まり込み。素敵に言ったらお泊りで、ワクワク言うならパジャマパーティ。
ついでに付け加えておくと、三人とも湯上り状態ぽっかぽか。

そう! 実のところこの語りが始まった直後から三人の髪はしんなりと濡れ、
頬は湯の温かさに上気して、多目的和室の中は乙女の馨香(けいきょう)で満ちにみちみち満たされていたという話なのだ。

しかも、である。こたつの置かれたすぐ横には、既に人数分の布団が敷かれて
「いつでも寝る準備は出来ているぞ」と受け入れ態勢もバッチリで、何を隠そう既に睡魔にやられた大神環が一足先に夢の中。

枕に涎を垂らしながら、わんぱく娘は口にする。

「くふふ♪ ……おやぶん、そこはくすぐったいぞぉ」

はてさてどんな夢を見ているのやら。環の寝言を耳にした琴葉が頬杖をついて口を開く。

「ん、もう! プロデューサーは一体なにをしてるかな」
8:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:43:59.44 ID:SuJRDoqN0

するとたい焼きアイスを頭から食べるか尻尾から食べるか未だに決めかねているエミリーが

「琴葉さん。仕掛け人さまでしたなら、まだ事務室でお仕事をなさっているのではないでしょうか。
確か、電話で明日の稽古の打ち合わせをすると仰られていたような……」

と、両手の親指と人差し指でそれぞれたい焼きの頭と尻尾をちんまりつまんで微笑みながら答えたのだ。

このある意味正しく、ある意味では間違っている回答に琴葉は顔を赤らめると。

「えっ!? あ、そ、そうだっけ? ……まだ、お仕事してるんだ」

チラリ、壁掛け時計を一瞥した。

「プロデューサーって、いつもこんな遅くまで仕事してるのかな……」

「みたいですね。大人組の皆さんの放送無線電話のお仕事に付き添う時は、もっと遅くまで出ているようですし」

「ああそっか、このみさん達の深夜ラジオ」

「いくら大人の女性とはいえ、夜遅くに付き添いも無しは危険極まりないですから」

そうしてエミリーは自らの意識を仕掛け人ことプロデューサーの話題から、
目の前で不敵に泳ぐたい焼きアイスに移すと考える。

そも、日本人は食にたいしてなにかとうるさい民族だ。

たい焼きを食べるのは頭かそれとも尻尾からか? お好み焼きをおかずにご飯を食べるのは邪道なのか?
バナナはおやつに入るのか? きのことたけのこはどちらが上で下なのか? その他もろもろエトセトラエトセトラ。
9:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:47:17.40 ID:SuJRDoqN0

それは英国出身のエミリーを大いに悩ませる問題で、だがしかし、
ティーにこだわるイギリス人としては「別に人それぞれでいいじゃないか」とバッサリ切ることもできず煩わしい。

とはいえだ。幸いにも彼女には目の前で泳ぐたい焼きの食べ方について一つの指針がありはした。
それは先に紹介した自称たい焼きマエストロである高山紗代子が示す道。


「私はたい焼きを尻尾から食べます。ええ、ええ、殆どの日本人がたい焼きを頭から食べることは知ってます。

その理由は諸説あるものの、有名なのはあんこで甘くなってしまった口の中を、餡の少ない尻尾の生地で整える――
要は、口直しとして尻尾のカリカリを最後の最後に食べるのだと。

……確かに、この説は一見筋が通っています。

ですが、最近では尻尾までぎっしり身が詰まっていることを売りにしたたい焼きだってあるワケで、
一概にこの説が正しいとばかりは言い切れない。むしろ、だからこそたい焼きを食べる方向はいつでも逆であるべきなんです!

それはなぜかと言いますと、やはり、たい焼きと言うのは長い人生の比喩なので。
初めに餡の少ない尻尾を食べる。ここがいわゆる義務教育と将来の為の経験を積む過程なんですね。

餡の少ない、甘みの少ない、辛く苦しい一時を始めにこなしておくことで、後は餡子のたっぷり残った頭の方へと一直線。
最後まで豊かで実りのある人生を、温かなたい焼きのぬくもりと共に味わえる。

……でもこれが、もしも逆側だったらどうでしょう?

餡の豊富な頭側。つまり人生の初めを甘く過ごしたばっかりに、最後の尻尾に差し掛かる辺りではもう楽しい事など残っていない。
あるのはカリカリパリパリと焼き付いた、無味乾燥な老後だけ」


しかし、この説には矛盾がある。そう! 紗代子自身が"尻尾まで餡タップリのたい焼きがある"ことについてハッキリ言及しているのだ。
だが、彼女はそのことについて問われると一笑のうちにこう答えた。


「それは揚げ足取りにもなりませんね。

最初に尻尾から食べ始め、そこにぎっしり餡子が詰まっていた場合これは"ラッキーだった"と言えるでしょう。
その後は予定していた通り、頭まで餡子を堪能です。

でもですよ? 最後に尻尾を食べた時たまたま餡子が入っていた……これは単なる偶然です。

割合的には最後に生地だけを食べることになる方が圧倒的に多いワケなんですから、
人生で例えると、宝くじに運よく当たったようなものです。

なら、確率的にどちらが最後まで甘さ多めの人生を送れるかは――考えるまでもないですよね? もちろんそれは、尻尾です!!」
10:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:50:59.32 ID:SuJRDoqN0

さて、さて、さて……そんな熱きこだわりを見せた紗代子の同僚であるエミリーはもちろん彼女の考えを知っていた。

知っていて、しかしなお決めかねているそのワケは? お答えしよう!
要するにそれは、エミリーが指で支えるその鯛が、鯛は鯛でもたい焼きではなくたい焼きアイスだったからに他ならない。

つまり、中に入っているのは餡子ではなくアイスなのだ。
しかも大きさは決まっている。大体最中の真ん中に、チョコンと収められている。

それは頭から食べようが尻尾から齧ろうがどちらにせよすんでのところで口の中に納まりきらぬ微妙な距離。

ああ、ああ! エミリー、エミリー、大和撫子を目指す金髪の幼き美少女は今、
「結局どちらから食べようと、最後は最中のぱさぱさが口の中を悲しく満たします」と悲観に暮れて悩んでいる!

とはいえ彼女自身にも策はあった。背びれから食べてみようだとか、お腹にかぶりついてみようだとか、
だが、しかし、運命は! 彼女が自身に課した戒めの衣であるところの"はしたない"という言葉が邪魔をする。
11:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:53:09.14 ID:SuJRDoqN0

そう、そうだ、そうなのだ! 頭と尻尾を指でつまみ、
ぱくりとそのはらわたにかぶりつく様はまるで洗練されてない野性味あふれるワイルドさ。

実に、実にはしたない! おぼこじゃない! 見ている側からすれば悶絶級の可愛さだが、
当のエミリー本人はそのような振る舞いを良しとしない!!

なので、彼女は悩みに悩み抜いた末――人生の先輩でもあり憧れるべき対象でもある理想の大和撫子の一人、
四条貴音ならばこの場合どうするかと思い浮かべてみたのである!

エミリーの想像の中にたい焼きアイスを手にした貴音の姿が描かれる。
彼女はいつものように凛とした、上品な態度で「ふふ、私でしたらこの場合――」とエミリーに向けて微笑むと。

「こうですね」

ぱくり! その口を大きく開け、アイスを一口で頬張った。
それから何処からともなく取り出した、『なんくるないさー』と毛筆で書かれている扇子を広げて自分の口元を覆い隠し。

「ほれにへ、ひっへんはふひゃく!!」

チョーン! と拍子木の音がして、現実世界に戻るエミリー。

目の前のたい焼きの大きさを自分の指で測ってみる。その丈、実に手の平一つ分。
これを一瞬のうちに口の中へ? ……無理だ、無理、何がなんでも無理がある。

おまけに熟考が過ぎたためか、既に中身のアイスはむにゅむにゅとした弾力を生んでいた。

12:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:55:19.00 ID:SuJRDoqN0

もういっそのことこのまま中のアイスを指でむにむに押し広げ、
最中中に満たしてから食べてみるのも一興かしらん? ……などと投げやりな考えも浮かび始めた時である。

「エミリーちゃん。もしかしてカロリー気にしてる?」

突然聞こえた忌み言葉に、エミリーが慌てて辺りを見る。……大丈夫だ、異常はない。

共にお泊りをする予定の佐竹美奈子はこの時間、明日の朝食の仕込みを終えてお風呂に入っている頃合いだ。
まだ、幸いにもこの多目的和室に彼女が近寄る気配はない。

それでも安心できないという読者諸兄の為に少しだけ、今回だけは特別に、浴室にいる美奈子のことも描写しよう。

彼女は今、一糸まとわぬ裸体を劇場地下にある大浴場で晒している。
ちょうどお風呂の椅子に腰かけて、そのすべすべとした肌に垢擦り用のスポンジを擦りつけているところである。

真っ白に泡立つボディソープがまるで生クリームのように美奈子の体の要所を飾り、
豊満なお山の頂には薄桃色のさくらんぼがちょこんと乗ってる景色も見える。

ああ絶景かな、絶景かな。その姿は人でありながらさながら高級フルーツパフェーであり、
洗髪の為にほどかれた、肩にしなだれかかる彼女の髪はチョコソース。

盛りつけられた果物もチェリーにパインにマンゴーと、ここにスプーンがあるのなら、否!
スプーンなどなくとも男らしく直食いしたい衝動に駆られる程美奈子はスイーツとして実に程よく食べごろで――。
13:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:57:04.43 ID:SuJRDoqN0

「だったら半分こしよっか? やっぱり夜寝る前だもん。女の子としては気になるよね」

そうスイーツ、デザート、つまるところはアイスである。
ちなみに先のカロリー発言も、今回の半分こ発言もどちらも琴葉によるものだ。

さらに付け加えて言うならば、この発言の建前には

「気になるよね、カロリー」と言う優等生田中琴葉ならではの優しい気遣いだけでなく、
「……もう一個は流石に多いけど、半分だけなら大丈夫」というアイス食べたい琴葉ちゃんの密かな願望も含んでいた。

とはいえそんな琴葉の思いとは裏腹に、この一言は悩むエミリーに天啓を与えることになったのだ。

「それです、琴葉さん!」

彼女は歓喜の声を一声上げ、両手の指でしっかりとたい焼きアイスの頭と尻尾を掴み直す。
そうして琴葉が固唾を飲んで見守る中、「えいや!」とその身を二つに引き裂いた!

ポタタとこたつ台の上に、緑の体液を滴らせて二つに分かれたたい焼きアイスだった物。
今、その断面を見つめたエミリーが恍惚とした表情で言う。
14:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 22:59:43.12 ID:SuJRDoqN0

「Yeah! こうすれば最中も気にせずに、中のお抹茶氷菓を食べられましゅ……♪」

さらに彼女は自らの手首を汚す苔色粘着甘露にそのぷっくりとした唇で吸い付くと。

「んちゅ……ちゅ……ちゅく、ちゅぱ♪」

淫靡な水音をたてながら、ゆっくりと舌を絡めて掬い取る。……それだけでない!
エミリーは美しいまつげが蠱惑的な宝石のような目を細めると、その愛おし気な視線を手の中にある最中の断面へと移し。

「はみゅっ! ちゅちゅ……ずずっ……じゅっ♪」

"ソコ"に溜まった抹茶アイス。室温でドロロのデロロのトロロに蕩けた乳の味もする蜜を貪るように口に含み、
申し訳程度に挟まれていた餡の粒々を喉奥に追いやるために咀嚼して、

その度に彼女の唇の端からは、閉じ切られなかっただらしないゆるゆるのその隙間からは!
唾液と混ざって一つになったグリーンティーがつぅっと糸引き彼女の顎を、そしてこくこくと動く喉元を汚していったのだ……。

まさに退廃的である。

目の前に座るエミリーが"はしたなさ"などと言う楔をとうの昔に打ち捨てて、
快楽と自らの欲望のまま徐々に堕ちて行くその様を、

一心不乱に両手両指両手首を唾液と苔色甘露で淫らに穢していく様を、
まじまじと、片時も目を離すことなく田中琴葉は目撃した。
15:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 23:00:41.63 ID:SuJRDoqN0

いや、目撃せざるを得なかった。なぜならば、だ。

それだけ抹茶たい焼きアイスを食するエミリースチュアートと言う少女の姿は魅力的で、
実に妖しい色香を漂わせ、人の目を惹き付けて止まない"輝き"を放っていたからに他ならない。

つまり、平たく言えばそう、それは――。

「ん……エミリーちゃん、かわいいね」

いつの間にやらその身を起こした杏奈が言う。
彼女の膝の上からこたつ布団を押しのけて顔を出したこぶんが「にゃー」と鳴く。

丸々一匹分のたい焼きがエミリーのお腹を満たした時、
琴葉はようやく緊張していた体を脱力させて呟いた。


「……うん。アイスもう一個食べよ」
16:◆Xz5sQ/W/66:2017/12/05(火) 23:01:38.08 ID:SuJRDoqN0
===
以上おしまい。私は楽しく書けたので、皆さまにも楽しく読んで頂けたならば幸いです。
後、以前から書きたかったエミリーにお菓子を食べさせる願いがようやく叶って嬉しいです。

では、お読みいただきありがとうございました。
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12月7日 10時09分|グリマス0コメント

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