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1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:15:59.93 ID:i7pR/GRDo

俺は坦々麺が好きだ。


といっても坦々麺にはちょっとうるさいとか、
有名な店は欠かさずチェックしているとか、そういうことはない。

「通」だとか「玄人」だとかでは全くなく、あくまでただの「好き」である。


好きなわりに、日常生活の上で坦々麺を食べる機会はなかなか巡ってこない。

自宅の近くには中華料理屋はないし、勤務先の近くには中華料理屋自体はあるのだが、
坦々麺はやっていないのだ。
また俺自身、一つの料理のためにどこかに出かけることをするタイプでもない。

なので、出かけた先で食事時になり、たまたま坦々麺をやっている店を見つけた時などは、
ほぼ必ず食べることにしている。


そういった意味では、やはり俺にとっては特別な料理の一つといえるかもしれない。
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:17:12.32 ID:i7pR/GRDo

この日、俺は免許証の更新を終えていた。

あとは家に帰るだけなのだが、この日訪れた地域はそれこそ免許の更新なんて用事でもない限り、
まず訪れることはないであろう場所だった。

すぐに帰るのもなんだかもったいないと思い、俺は駅の近くをぶらぶらと歩いていた。


歩いていると、お腹が空いてきた。そういえばまだ昼を食べていない。

そんな時、一軒の中華料理屋が目に入った。

店の前にある看板には、幸いにも「坦々麺」の文字。


俺はこの店に入ることにした。
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:19:13.80 ID:i7pR/GRDo

ランチタイムから時間は外れていたので、店内には客が二人いるだけだった。


「いらっしゃいませー」


カタコトの日本語でしゃべる店員さんに案内され、席につく。
お冷やがテーブルに置かれる。


「お決まりになりましたら、お呼び下さい」

「はい」


とはいえ、頼むものはもう決まってるのだが。
俺はメニューをペラペラとめくり、悩むふりをしてから、店員さんを呼ぼうとした。
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:22:54.77 ID:i7pR/GRDo

ここでふと、「ライス」が目に入る。


危険な誘惑。


坦々麺は800円であり、ライスは200円。坦々麺はセットメニューなどはないようで、
坦々麺ライスにしてしまうと1000円になってしまう。
たかが免許の更新程度のお出かけで、1000円ランチを食うというのは抵抗がある。

しかも、いわゆるラーメンライスなるものが、あまり体によろしくないということは
俺も重々承知している。

二つの意味で、ここでライスを頼むのはまずい。

財布のためにも、健康のためにも、ここは坦々麺だけで済ますべきだ。
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:26:28.89 ID:i7pR/GRDo

その時、心の中からこんな声が聞こえていた。


「カイジ君……下手っぴさ……。欲望の解放の仕方が下手……。
 本当は坦々麺ライスにしたいのに、坦々麺単品で頼むなんて……。
 800円と1000円なんてたった200円の差……。
 飲み物を二本も我慢すればお釣りがくるじゃないか……。
 それに健康のためにというけど、もしここで下手に我慢してしまったら、
 そのストレスでかえって健康を損なってしまうんじゃないのかい……?
 なあにご飯一杯分のカロリーなんて、あとで腕立て伏せでもすればチャラ……。
 贅沢は……小出しじゃ駄目っ……!」


俺はカイジでもなんでもない(ついでにいうと名字も伊藤じゃない)のだが、
なぜか漫画『カイジ』に登場する「班長」の声が完璧に脳内再生された。

俺は自分自身が生み出した「班長」に逆らうことができなかった。
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:27:10.05 ID:i7pR/GRDo

店員さんを呼ぶ。


「坦々麺と……ライスを」

「ライスは無料で大盛りにできますが、どうしますかー?」


無料なら、もらっといた方がいい。
庶民の悲しきサガ。


「大盛りで」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:30:12.84 ID:i7pR/GRDo

注文を済ませると、俺は読みかけだった小説を読む。

エリート銀行員が殺されるという筋書きのためか、やたらと金融業界のウンチクが続く。
本筋にもあまり関係なさそうだし、つい飛ばし読みになってしまう。


「このウンチク、何ページ続くんだよ」


少々辟易してきた頃に、お待ちかねの坦々麺とライスがやってきた。

俺は本をカバンにしまった。
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:33:22.15 ID:i7pR/GRDo

大きい器の中に、見るからに辛そうな赤くエネルギッシュなスープ。
ラーメンよりはやや太めの麺。
麺の上には、豚肉のそぼろ、ザーサイ、小松菜、ネギが乗せられている。
湯気とともに食欲をそそる香りがたちこめる。

うまそう、という感想しか出てこない。


「ごゆっくりどうぞー」


俺は会釈すると、箸を手に取った。
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:35:29.50 ID:i7pR/GRDo

とりあえず、まずはスープを味わってみる。

辛い。が、うまい。
癖になる辛さというやつだ。

もう一口。

おお、うまい。
坦々麺の赤い汁が全身に染み渡り、俺の体まで赤く染まっていくかのようだ。

ほっと一息ついたところで、いよいよ麺に挑むことにした。
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:36:58.19 ID:i7pR/GRDo

麺を勢いよくすする。


辛みを帯びたコシのある麺をある程度口に入れると、咀嚼する。
噛むたびに熱とうま味が広がる。


うまい。うますぎる。
俺は目をつぶり、今の感激を噛みしめた。


大げさでなく、生きててよかった。
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:39:01.29 ID:i7pR/GRDo

さあ、次はそぼろやネギを絡めて、もう一度麺をいただく。

ずるるっ。
かぁ〜、うまい。

豚肉のそぼろのボソボソ感とネギのシャキシャキ感が、麺のうまさを一層引き立てる。


これらを飲み込んだ後、余韻が残るうちにライスをかき込む。
辛みが残る口の中に、米の甘みが広がる。

坦々麺ライスにしてよかった、と俺は心から思った。

12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:41:16.03 ID:i7pR/GRDo

全身から汗が噴き出す。
鼻の下に汗の玉が出来ているのが分かる。

だが不快さはない。むしろ心地よい。


ザーサイをかじる。
汁がたっぷり染み込んだザーサイは、そのシャキッとした歯ごたえとともに、
まさに一種の清涼剤のような風格を漂わせていた。
小松菜もいい味だ。


そして、コップに入った水をゴキュッと飲む。
ぷはーっ。
ただの水なのに、ただの水のくせに、めちゃくちゃうまい。感動をありがとう、ただの水。


お冷やをおかわりして、上着を脱いで、さあ後半戦突入だ。
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 20:44:18.37 ID:i7pR/GRDo

箸とレンゲが止まらない。


麺をすすり、スープを飲み、ご飯をかき込み、時々野菜をかじる。


ご飯と麺、どちらをフィニッシュにするか、少し迷ったが、ご飯を平らげてから麺を全部食べた。

さて、残るはスープ。
健康を考えるなら、スープは残すべきだが――


ここで再び班長のささやき。


俺はスープを飲み干した。
ごちそうさまでした。
14:◆oxhurt84Iw:2016/12/22(木) 20:46:36.87 ID:i7pR/GRDo

財布から野口英世を一枚出し、店員さんの挨拶を背に、俺は店の外に出た。

まだ体に残る汗が風で冷やされ、俺は肌寒さを感じた。
だが、気持ちいい。

なんという充実感だろうか。
なんという達成感だろうか。

大げさでなく、生きててよかった。


「さ、帰るか」


次、坦々麺を食う機会はいつ訪れるのかな、などと考えつつ俺は家路についた。





― 完 ―
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/12/22(木) 21:16:52.36 ID:6ZOqoFAdo
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12月23日 22時01分|オリジナル:その他0コメント

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